『Jの記念の写真』

 「これからはじめてのカットをするの。モデルは○○クン。」というメールがJから来た。つまりは(だから写真を撮っておいてね)ということなのだ。僕はM9にズミクロン90ミリを付けて指定された場所に向かった。
 Jは美容専門学校に通う18歳で“大人になりたくない”が口癖。誰にだってそんな時期はあるわけであって、けれど否応なく大人へのステップを登ってゆく。本人もそれは分かっているのだろう。だからこそあの頃、写真がたくさん欲しいと言って、なんだかんだと文句を言いながらも撮らせてくれたのに違いない。今から思えば彼女のおかげで人を撮ることの意味をずいぶんと教えてもらったような気がする。
 この春、そんなJがある町の美容室に就職したと人づてに聞いた。いろいろ大変だろうことは想像がつく。ただでさえ感受性が敏感な頃。ときには悔し涙を流しときには挫折するようなこともあるだろう。このときのカットはお世辞にも上手とは言い難かったけれど、もしかしたらそんなとき、この写真は何かを語ってくれるかもしれない。
 就職おめでとう。がんばって!