三千世界の烏を殺し

 生まれてくる時代を自由に選ぶことが出来たとしたらどの時代がいいかな。のんびりのどかな時代がいいな。未来ってのはそういう意味では候補にならない気がする。未来がのどかな時代になるなんて想像つかない。
 やっぱり江戸時代。それも元禄を過ぎた頃の江戸の町民。武士ってのは身分としては偉くていいように見えるけど駄目。この時代は既に今のサラリーマンとたいして変わらん管理社会だった感じだから。農民ってのはどうだったのかよくわからんけれど学校で習った限りではいつも年貢に苦しんでいるイメージがある。 やはり江戸の町人がいいな。大工とか職人。江戸の大工ってえとだいたい仕事は昼前で終わっちまって、あとは銭湯に行って酒を飲んで帰って寝ちまうってな生活か。呑気でいい感じなイメージがある。携帯で呼び出されるなんてことは無いしそもそも電気が無いから。
 長屋暮らしは質素なものだろう。海外旅行なんて贅沢は有り得ないけれどそれでもたまには長屋の皆と一緒に大山詣ででもしてくる。時々は仕事を少し頑張って吉原に行っちゃうかー?

 何度か通ってるうちには気の合う花魁も出来てくるに違いない。夜通し酒を飲んで東の空が白んできた頃
「ねぇ熊さん〜もう帰っちゃうのかい? つれないねェ〜」
「しょーがねーじゃねーかぁ、早く帰んねぇーと親方に怒られっちまう。またそのうち来っからよ。」
そんなやりとりの後には背中から花魁の都都逸が聞こえてくる。
♪三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい♪
なーんて。
くぅーっ、いいなー江戸時代!てやんでぇべらぼうめ!